Rocket Labの看板ロケット、Electron(エレクトロン)。「小型衛星専用」という明確なコンセプトで世界市場を切り開いてきたロケットです。どんな機体で、なにが凄いのか調べてみました。
Electronとは?——一言で言うと
Electronは小型衛星専用の2段式ロケットです。全長18m・直径1.2mと、Falcon 9(全長70m)と比べるとかなりコンパクト。ペイロード(積み荷)は最大300kgで、数百kg以下の小型衛星を「専用便」で打ち上げることに特化しています。
「専用便」がポイントです。Falcon 9は大型衛星か相乗り(ライドシェア)が主体で、打ち上げ日時や軌道は融通が利きにくい。Electronは顧客が希望する軌道・タイミングに合わせたフレキシブルな小型専用打ち上げを提供しており、ここに需要があります。

基本スペック
| 項目 | Electron Rocket Lab |
Firefly Alpha Firefly Aerospace |
Falcon 9 SpaceX |
|---|---|---|---|
| 全長 | 18m | 29m | 70m |
| LEOペイロード | 最大300kg | 最大1,170kg | 最大15,600kg |
| 打ち上げ価格 | 約8〜9億円 ($7.5〜8.4M) |
約23億円 ($15M) |
約110億円 ($74M) |
| kg単価 | 約375万〜450万円/kg ($25,000〜30,000/kg) |
約195万円/kg ($13,000/kg) |
約90万円/kg ($6,000/kg) |
| 打ち上げ方式 | ✅ 専用便 | ✅ 専用便 | 専用便・相乗り両対応 |
| エンジン方式 | 電動ポンプ式 (世界初) |
タップオフサイクル式 | ガスジェネレーター式 |
kg単価だけ見るとElectronは割高に映りますが、「専用便」と「相乗り」では顧客が得られる自由度がまったく違います。Falcon 9の相乗りは安い代わりに軌道・打ち上げ日時はSpaceXのスケジュール次第。Electronは顧客が希望する軌道に・希望するタイミングで届けられるため、タイミングが命の偵察衛星や科学ミッションでは”高くても専用便”を選ぶ需要があります。Firefly Alphaは積載量がElectronの約4倍で中型寄りの位置づけ——Electronより大きい衛星を専用便で飛ばしたい顧客を狙っています。
Rutherfordエンジン——何が革命的なのか

Electronの最大の特徴はRutherford(ラザフォード)エンジンにあります。ロケットエンジンは燃料と酸化剤を高圧でエンジンに送り込む「ポンプ」が必要ですが、従来のロケットはそのポンプをガスタービンで動かしていました。
Rutherfordは世界で初めて電動モーターでポンプを動かす方式を量産ロケットに採用しました。これにより:
- 構造がシンプル:ガス発生器が不要になり、部品点数が大幅に減少
- 故障リスクが下がる:部品が少ないほど壊れる箇所も少ない
そしてもう一つの革新が3Dプリント製造です。Rutherfordエンジンの主要部品(推力室・インジェクター・ポンプ・バルブ)はすべて3Dプリントで作られており、生産スピードの速さとコスト削減を両立しています。「3Dプリントで作れるロケットエンジン」というのはコスト革命に近い発想で、Electronのビジネスモデルを支える技術的な柱になっています。
打ち上げ実績——数字が証明する信頼性
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 総打ち上げ数(2026年5月時点) | 87機以上(小型ロケット世界最多) |
| 失敗数 | 4回 |
| 成功率 | 約95%以上 |
| 2025年の打ち上げ数 | 21機・成功率100% |
| 初成功 | 2018年1月21日(2号機) |
2025年は21機全て成功——年間21機というペースも、月2機近い頻度で打ち上げていることを意味します。小型ロケットとしては異例の高頻度です。「飛んで当たり前」の信頼性が積み上がってきたことで、政府・軍の機密ミッションにも採用されるようになっています。
再利用への挑戦——ヘリコプターキャッチの顛末
SpaceXのFalcon 9が第1段を垂直着陸で回収するように、Rocket Labも再利用でコストを下げようとしてきました。ただしそのアプローチはユニークで、ヘリコプターで落下中の第1段を空中でキャッチするというものでした。
| 時期 | ミッション名 | 結果 |
|---|---|---|
| 2020年11月 | Return to Sender | 海上で第1段の回収に初成功 |
| 2022年5月 | There And Back Again | ヘリコプターキャッチに成功!→機体の挙動が不安定でリリース→海上回収 |
| 2022年11月 | Catch Me If You Can | テレメトリー(通信)途絶でキャッチ失敗 |
2022年5月の「There And Back Again」では史上初のヘリコプターによるロケットブースター空中キャッチに成功しましたが、想定外の機体挙動でパイロットが安全のためリリース。その後も試行を重ねましたが、最終的にヘリコプターキャッチ方式を断念し、海上着水回収に切り替えています。
Now these are views we could get used to. #ThereAndBackAgain May 11, 2022
※ キャッチ瞬間は1分40秒あたりから。それまでは打ち上げ・分離・降下シーンです。
現在の再利用への取り組みは、回収した第1段を検査・整備して再飛行させる方向で続けています。Electronはそもそも再利用前提で設計されていないため、完全な再利用ロケットとしての運用はNeutronに委ねられています。
誰が使っているのか——主な顧客
- NASA:PREFIREミッション(気候科学)・CAPSTONEミッション(月軌道)など複数のミッションで採用
- NRO(国家偵察局):米国の機密偵察衛星ミッション。政府の信頼を得た証
- Space Force(宇宙軍):HASTE(極超音速飛行試験)プログラムで採用
- iQPS(日本):SAR衛星コンステレーション向けに複数回の打ち上げ契約
- Synspective(日本):SAR衛星の打ち上げ実績あり(5/22打ち上げ予定を含む)
- 商業コンステレーション各社:BlackSky・Spire Global・Planet Labsなど
NASAやNROといった政府機関からの信頼は、Electronの信頼性の高さを示すバロメーターです。特にNROは最も厳しい審査基準を持つ機関のひとつで、ここから受注できることはRocket Labの技術力の証明でもあります。
投資家として気になること
注目ポイント
- 打ち上げ頻度の増加:2025年は年間21機。2026年はQ1だけで2025年通年に匹敵する31件の契約を獲得しており、さらに加速する見込み
- 日本企業との接点:iQPS・Synspectiveなど日本の宇宙スタートアップがElectronを使っており、日本市場との関係が深い
- Neutronへの布石:ElectronでNASA・NROなど政府の信頼を積み上げたことが、Neutronの受注獲得にも直結している
リスク
- kg単価が高い:約375万〜450万円/kgはFalcon 9の相乗りより桁違いに高い。「専用便の価値」を顧客が認め続けることが前提
- 競合の台頭:Firefly Alphaや中国のGalactic Energy(Ceres-1)など新興の小型ロケットが追いかけてきている
- Neutronに注目が移る:投資家の関心はNeutronに集まりがちで、Electronの地道な実績は評価されにくい面がある
まとめ
Electronは「小型衛星専用便」として世界市場を開拓し、87機以上の打ち上げ実績と約95%以上の成功率を積み上げてきたロケットです。派手さはないですが、NASA・NRO・Space Forceといった政府機関の信頼を得ていることがRocket Labの今の強さの土台になっています。
Neutronに注目が集まる中、Electronが安定して稼いでいるからこそNeutron開発の資金が回っている——そのことは忘れないでおきたいところです。
