Starship第12回試験(V3初飛行)、何が違った?【5/23 部分成功・5/27 FAA運用停止】

🟡 結果は両面評価(2026年5月23日 7:30 JST、V3初飛行)/5月27日 FAA 運用停止命令

2回の延期(5/20・5/21)を経て、5/22 18:30 EDT=日本時間5/23 7:30に第12回試験飛行を実施。第2発射台 Pad 2 初稼働 / Raptor 3初使用 / 22機のStarlink simulator全機分離成功。Ship(上段)はインド洋に予定通り着水、Raptor Vacuum 3機中1機停止も軌道到達と Starlink simulator 22機分離成功・V3再突入系の検証完了。一方 Booster(1段)は分離後の帰還燃焼で複数 Raptor 3 が失敗し、約60秒予定の燃焼が20秒未満で終了、メキシコ湾に硬着水(FAA “mishap” 認定)。詳細は記事末尾の結果セクションへ。

SpaceXの次世代大型ロケット「Starship(スターシップ)」の第12回飛行試験。今回は単なる試験の繰り返しではありません。第3世代(V3)への移行・新型エンジン Raptor 3・新しい第2発射台と、複数の「初」が重なるタイミングです。しかも 6月12日のSpaceX IPO(Nasdaq・SPCX)を約3週間後に控えた時期でもあります。何が起きているのか気になって、調べてみました。

今回の試験がいつもと違う理由

Starship打ち上げ(過去の飛行試験より)
打ち上げに向かうStarship(過去の飛行試験より) 撮影:Steve Jurvetson / CC BY 2.0

前回のIFT-11(2025年10月13日)はV2世代の最終試験として成功し、ブースターと宇宙船ともに着水を完了。V2の開発に一区切りがつきました。今回IFT-12は、そこから大幅に設計を刷新した第3世代(V3)の初飛行です。

今回が「初めて」になる要素をまとめると、次の通りです。

  • 第3世代Starship宇宙船・Super Heavyブースターの初飛行
  • 新型エンジン「Raptor 3」の初使用
  • 新しい第2発射台(Pad 2)からの初打ち上げ
  • Starlink衛星シミュレーター22基の放出(シリーズ最多)

なお今回は、V3への設計変更が大きいため、ブースターのキャッチ(空中回収)は行わず、分離後はメキシコ湾へ着水する予定です。まず「飛ばして分離できること」を確認することが最優先のミッションです。

IFT-5でMechazillaに捕捉されたSuper Heavyブースター
IFT-5(2024年10月)で実現した史上初のブースター空中回収。IFT-12ではV3設計変更のため、キャッチは行わずメキシコ湾へ着水の予定 撮影:Steve Jurvetson / CC BY 2.0

エンジンが「43トン」軽くなると何が変わるか

今回初使用のRaptor 3エンジンは、センサーや制御機器を内部に統合することで、エンジン1基あたり約1.1トン(約2,400ポンド)の軽量化を達成したとされています。

Starshipのエンジン総数はSuper Heavyに33基、宇宙船に6基の計39基。単純計算で機体全体が約43トン軽くなります。

🚀 Starshipのペイロード能力:V2 → V3の変化(目標値)

V2(従来)
約35トン
V3(今回〜)
100トン以上(目標)

LEO(地球低軌道)への再利用時ペイロード。V3は飛行試験での検証待ち。出典:SpaceX発表・各社分析より

ペイロード能力が約3倍になるということは、1回の打ち上げで運べるものが劇的に増えるということです。Starlinkの衛星を大量に一括投入したり、将来的には宇宙空間でのデータセンター構築や月面への大型物資輸送なども視野に入ってきます。

さらにRaptor 3は推力も向上しています(海面版:約250トン重、真空版:約275トン重)。軽くなってより強くなった、というのは単純に強力なアップグレードです。

IFT-5のSuper Heavyブースター着地燃焼
IFT-5での着地燃焼。33基のRaptorエンジンが逆噴射し速度を落とす 撮影:Steve Jurvetson / CC BY 2.0

第2発射台が動き始める意味

今回の打ち上げは、テキサス州スターベースに新設された第2発射台(Pad 2)からの初飛行でもあります。

1基の発射台しかない現状では、試験の間隔が詰まりません。整備・点検・次機の組み立てがひとつの台に集中するためです。第2発射台が稼働すれば、片方で整備中にもう片方から打ち上げられる体制が作れます。

SpaceXが目指す2026年の打ち上げペースは年間8〜12回。第2発射台なしではこの目標は達成できません。今回のIFT-12は、そのスケールアップへの最初の一手です。

ところで、実運用はいつ頃になるの?

「試験が何回も続いているのはわかったけど、実際いつ本番になるの?」と私も気になって調べてみました。現時点の目標スケジュールをまとめると、こんな感じです(あくまで目標値なので、ズレる可能性は大いにあります)。

時期(目標) 内容
2026年後半 V3でのブースター空中回収(Mechazilla)再開
2026年後半〜2027年 軌道上燃料補給の実証(Starship同士がドッキングして燃料を補給)※SpaceXの目標は2026年後半だが、試験進捗次第
2027年後半 NASAとの月着陸船(Starship HLS)地球軌道試験
2028年目標 NASAアルテミス計画・有人月面ミッション(最初の大きな実運用)
2030年目標 火星への無人物資輸送(Musk氏の構想)

最初の「本番」になりそうなのは、NASAのアルテミス計画で月着陸船として使うことです。NASAとSpaceXは2021年に契約を結んでおり、Starshipが実際に宇宙飛行士を月面に届ける日を目指しています。

「2028年に人が月へ」というのは、正直まだ半分SF的に感じます。ただ、Falcon 9が今や週に複数回飛ぶ”当たり前のロケット”になっていることを考えると、5〜10年後のStarshipがどんな状況になっているか、正直まったく想像できません。そこが面白いところでもあります。

打ち上げはIPOの約4〜5週前——意味することは?

SpaceXのIPOは2026年6月12日(ティッカー SPCX、Nasdaq上場)に確定。IFT-12の打ち上げ(5月22〜23日)はその約3週間前にあたります。

このタイミングは偶然ではないと思います。ロードショー(機関投資家への説明会)が6月4日から始まる予定なので、IFT-12の結果はそのプレゼン資料に直接使えます。「V3が成功した」という実績を持って投資家の前に立てるかどうか——SpaceXにとって、かなり大事なタイミングなのではと思います。SpaceX IPOの全体像は 「SpaceX IPO 日本人ガイド」 にまとめています。

逆に言えば、失敗した場合のIPOへの影響も気になるところです。SpaceXは過去に何度も失敗から学んできたため、1回の失敗でIPOが飛ぶような状況ではないと思いますが、投資家心理への影響は避けられないでしょう。

🎉 結果まとめ:V3初飛行は主要目標達成

第12回飛行試験は 2026年5月23日 7:30 JST(5/22 18:30 EDT、予定7:15から15分遅れ)に実施。事前に注目していた4つのポイントの結果:

注目ポイント結果詳細
第2発射台から正常打ち上げ✅ 成功Pad 2 初稼働。整備サイクル並列化への第一歩
ブースターと宇宙船の分離✅ 成功V3 初飛行の最低ラインをクリア
Raptor 3 エンジンの正常燃焼🟡 上段成功・1段失敗上昇中:Shipの6機中1機停止も残り5機でSECO到達(SpaceXは「軌道は想定範囲内 within bounds」と説明)。分離後の帰還燃焼(boostback burn):複数の Raptor 3 エンジンが失敗、約60秒予定の燃焼が 20秒未満で終了、Booster は計画されていたソフト着水ができず、メキシコ湾に硬着水。5/27 FAA が “mishap” 認定し運用停止命令
Starlinkシミュレーター22基放出✅ 成功全機正常分離。過去より速い分離ペース。最後の2基はフラッシュライト点灯でShipのヒートシールド撮影に成功

Ship は計画通りインド洋に着水後、いつもの「予想通り転倒・爆発」(SpaceXの試験では着水後にこうなるのが通例)。SpaceX社員は大歓声で迎えました。

上昇中にエンジン1機が停止したものの、SpaceXは中継で「軌道は想定範囲内(within bounds)」と説明し、V3初飛行で主要目標を一発で達成。「Mixed Success」と報じる一部メディアもありますが、初飛行としては十分すぎる結果です。これで 6月12日のSpaceX IPO(SPCX)の3週間前に「V3は飛んだ」という実績を投資家説明資料に盛り込めることになります。Musk氏にとってはこれ以上ないタイミング。


🚨 5/27 続報:FAA が Starship を運用停止

5月27日、米連邦航空局(FAA)は Flight 12 を “mishap”(事故)認定し、Starship の運用停止を命令しました。SpaceX 主導の事故調査の完了・是正策の実施・FAA の承認を経るまで再飛行は不可となります。

  • 事故の主因(暫定):分離後の帰還燃焼中に複数の Raptor 3 エンジンが連続失敗
  • 調査主体:SpaceX が主導、FAA が全工程に関与・最終承認
  • 再飛行までの目安:過去事例では 数週〜数か月(事案の複雑さによる)
  • 負傷者・物的損害:FAA 発表でなし

SpaceX IPO(2026年6月12日予定)が約3週間後に控える中、Starship V3 の運用停止は 「Starship 商用化シナリオ」のタイムラインに影響する可能性があります。ただし、Falcon 9 が現在の主力収益源であり、Starlink 加入者も順調に純増しているため、IPO の評価額(目標 約263兆円/$1.75兆)そのものへの直接的な影響は限定的との見方が一般的です。

📝 更新履歴

  • 2026年5月28日:5/27 FAA “mishap” 認定・Starship 運用停止を反映。Flight 12 のブースター事故詳細を正確に記述(帰還燃焼が20秒未満で終了、メキシコ湾に硬着水)
  • 2026年5月23日:打ち上げ成功を反映(V3初飛行・第2発射台 Pad 2 初稼働・Raptor 3 初使用・Starlink simulator 22機分離成功・Ship インド洋着水)。「予習用」記事から「結果まとめ」型に転換。エンジン停止のタイミング(上昇中/降下中)と SpaceX 公式説明(「軌道は想定範囲内 within bounds」)を正確に反映
  • 2026年5月21日 22:30:5/20延期・5/21中止を反映、再挑戦予定(5/22 米東部時間 18:15=5/23 日本時間 7:15)を追記。SpaceX IPO情報(6/12・SPCX確定)を反映
  • 2026年5月14日:初版公開
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