Neutronとは?——Rocket Labが社運を賭ける中型再利用ロケットを調べてみました

Rocket Labの未来を背負うロケット、それがNeutron(ニュートロン)です。今飛んでいるElectronは小型ロケットですが、NeutronはFalcon 9と真っ向勝負する中型再利用ロケット。Rocket Labが「次のSpaceX」と呼ばれる根拠でもあり、同時に最大のリスクでもあります。どんなロケットなのか調べてみました。


目次

Neutronとは?——一言で言うと

Rocket Lab Neutronロケットの構造図
Neutronの構造図。全長43m・第1段直径7mの中型再利用ロケット。(CC BY-SA 4.0 / CaglayanKutay, Soumya-8974)

Neutronは全長約43m・第1段直径7mの中型再利用ロケットです。LEO(低軌道)に最大13,000kgのペイロードを運べる設計で、これはFalcon 9(再利用時最大15,600kg)と同じカテゴリーに入ります。

ポイントは「設計段階から再利用が前提」という点です。Falcon 9は使い捨てロケットとして開発が始まり、後から再利用機能を追加しました。Neutronは最初から再利用前提で設計されているため、構造・素材・形状すべてが再利用に最適化されています。


基本スペック(Falcon 9・Electronとの比較)

項目 Neutron
Rocket Lab(開発中)
Falcon 9
SpaceX
Electron
Rocket Lab(参考)
全長 約43m 70m 18m
第1段直径 7m 3.7m 1.2m
LEO最大ペイロード(使い捨て時) 15,000kg 22,800kg 300kg
LEOペイロード(再利用時) 13,000kg 15,600kg
エンジン Archimedes×9 Merlin×9 Rutherford×9
燃料 液体メタン+液体酸素 ケロシン+液体酸素 ケロシン+液体酸素
再利用 🎯 第1段(設計段階から前提) ✅ 第1段(後付け実装) 試験中
運用状況 未飛行(2026年Q4目標) 2010年から運用中 2018年から運用中

NeutronはFalcon 9の「再利用時ペイロード」と同等レベル(13,000kg vs 15,600kg)を狙っており、商業衛星市場でFalcon 9と直接競合する位置づけです。一方でElectronとは桁違いの規模で、同じ会社のロケットとは思えないほどの飛躍があります。


Archimedesエンジン——メタロックス+3Dプリント

Neutronを動かすのはArchimedes(アルキメデス)エンジン。液体メタンと液体酸素を燃料とする「メタロックス」エンジンです。1基あたり推力約1メガニュートン(約165,000ポンド)、比推力320秒のスペックを持ちます。

Archimedesの特徴:

  • メタン燃料:従来のケロシンと違って燃焼が「きれい」で、エンジン内部が煤で汚れにくい。これが再利用に効く(点検・整備が楽)。SpaceXのStarshipも同じメタン燃料を採用
  • 酸化剤リッチ段階燃焼サイクル:当初はガスジェネレーターサイクルで設計していたが、2022年に変更。性能と再利用性を両立する必要があったため
  • 3Dプリント主体の製造:エンジン本体を世界最大級の金属3Dプリンターで一体成型。Electronで培った技術をスケールアップ

2024年8月にはNASAステニス宇宙センターでArchimedesの初の全燃焼時間ホットファイア試験に成功し、定格出力の102%を出力。エンジン側の開発は順調に進んでいます。

再利用20回が目標——だから”Nasty”試験が必要

Archimedesエンジンの設計目標は1基あたり最低20回の再利用。これはFalcon 9のMerlinエンジンと並ぶ水準で、エンジン1基の開発・製造コストを20回の打ち上げで割れるため、kg単価を劇的に下げられます。

ただし、「上昇時に動く」のと「再突入の衝撃を受けたあとも壊れず再点火できる」のとでは、要求水準がまったく違います。そこでRocket Labは“Nasty”テストと呼ぶ過酷な耐久試験を実施中です。具体的には:

  • 推進剤の圧力をわざと下げて、エンジンが嫌がる条件で動かす
  • タンク内の気体(ウラージ)と燃料が混ざる悪条件を再現する
  • 再突入時のような不安定な状況で点火・燃焼を試す

Peter Beck CEOはこの試験を「手塩にかけた我が子に苦手な食べ物を無理やり食べさせて、その反応を観察するようなもの」と表現しています。「上がる」だけでなく「降りてくる」過程まで含めて壊れないことが、再利用ロケットの本当の証明になる——というのがNasty試験の意義です。


独自の再利用設計——”Hungry Hippo”フェアリング

Neutronで最もユニークなのはフェアリング(衛星を覆うカバー)の設計です。通常のロケットはフェアリングを打ち上げ途中で分離して捨てますが、Neutronはフェアリングが第1段にヒンジ(蝶番)で繋がったまま開く設計を採用しています。

Rocket Labはこの設計を「Hungry Hippo(はらぺこカバ)」と呼んでいます。カバが口を大きく開くようにフェアリングが開いて衛星を放出し、その後カバの口を閉じるように戻して第1段ごと地上に帰還する——という発想です。

この設計のメリット:

  • フェアリング回収が圧倒的に簡単:第1段ごと地上に戻るので専用回収船が不要。Falcon 9も再利用しているが、別途海上で回収して整備する手間がかかる
  • 分離機構が不要:フェアリングを切り離さないので、分離装置や分離時の振動・衝撃を考えなくていい
  • 射場帰還が容易:第1段にフェアリングが付いたまま戻ってくるので、操作がシンプル

第1段は4本の着陸脚と空力制御用カナード(小翼)を備え、垂直着陸する設計です。回収方法は2モードあり、ペイロード重量に応じて使い分けます:

  • 射場直接帰還(RTLS):ペイロード8,500kgまでなら射場(Wallops Island)に直接戻る
  • 洋上回収:ペイロード13,000kgまでの重い打ち上げでは、Rocket Labが建造中の400ft(約120m)の洋上プラットフォームに着陸

Falcon 9と同じく2モード対応にすることで、軽い衛星はコストを抑えて射場帰還、重い大型衛星は性能を出しきって洋上着陸——とペイロードに応じた最適化が可能になっています。


初飛行までのマイルストーン——現在地

主要マイルストーン 6/11 完了

<完了したマイルストーン>

2021年3月 Neutron開発を発表(初飛行目標:2024年)
2022年9月 Archimedesエンジンを酸化剤リッチ段階燃焼式に設計変更
2024年8月 ArchimedesエンジンがNASA Stennisで全燃焼ホットファイア試験成功(定格出力102%)
2025年8月 Wallops Island Launch Complex 3(LC-3)完成
⚠️
2026年1月21日 第1段タンク試験で破裂——スケジュール見直し
2026年5月8日 ステージ分離試験キャンペーン成功(RKLB株が34%急騰)

<現在地(2026年5月)>

📍
新タンク製造中(自動製造マシン)/エンジン認定試験継続中
直近:5月7日に5機Neutron+3機Electronの社史上最大契約、翌5月8日にステージ分離試験成功

<初飛行までの残りステップ(業界標準)>

新第1段タンクの耐圧試験合格 自動製造マシンによる不良再発防止
機体全体の組立&LC-3への移送
Wet Dress Rehearsal(WDR) 燃料を充填してカウントダウン手順を実地リハーサル(点火なし)
静燃焼試験(Static Fire) 機体を地面に固定したまま9基のArchimedesを点火試験
🎯
初飛行(2026年Q4・10〜12月目標) RKLB株最大のカタリスト

Neutronは2021年の開発発表から5年。1月のタンク破裂という逆風もありましたが、エンジン全燃焼試験・LC-3完成・ステージ分離成功と主要マイルストーンを一つずつクリアしています。残るは新タンクの仕上げ→機体組立→燃料充填リハーサル(WDR)→静燃焼試験——という業界標準の手順を踏んで初飛行へ向かいます。

2026年1月のタンク破裂——詳細

2026年1月21日、メリーランド州の施設で実施した第1段タンクの油圧試験中、タンクが破裂しました。原因はタンクを構成する継ぎ目部分が外部委託先の手作業で製造されていたことによる製造不良。Rocket Labは本来、AFP(Automated Fiber Placement、自動繊維配置)マシンによる自動製造を予定していましたが、この機械の調整中に第1号タンクを外部委託で作っていたという経緯でした。

次のタンクからはAFPマシンで自動製造するため、同じ問題は再発しないとRocket Lab CEOのPeter Beckは説明しています。とはいえ、この失敗で初飛行は当初の2024年目標から実に2年以上遅れることになりました。


受注はすでに積み上がっている

🏆 社史上最大
機密顧客・5機契約
2026年5月発表。Neutron 5機+Electron 3機を2026〜2029年に打ち上げ予定。金額非公開
🪖 米軍輸送
USTRANSCOM協定
「ポイント・ツー・ポイント」貨物輸送の研究契約。地球上の拠点間を宇宙経由で数時間で運ぶ構想
🚀 NET 2026
AFRL REGAL実験飛行
米空軍研究所のロケット貨物輸送実証ミッションに採用。Neutronの再突入能力を試験

初飛行前にもかかわらず、Neutronはすでに大型の受注を獲得しています。Falcon 9以外の選択肢を求める政府・商業顧客の存在が、Neutronへの市場期待値の高さを示しています。


投資家として気になること

📈 注目ポイント
  • 初飛行成功=株価の最大カタリスト:「再利用中型ロケット企業」へのイメージ転換
  • 政府需要との結びつき:USTRANSCOM・AFRLとの関係。Falcon 9以外を求める防衛需要
  • メタロックスエンジン:Starship・New Glennと同じ次世代燃料で技術トレンドに合致
  • 独自の再利用設計:Hungry Hippoが成功すれば運用コストでFalcon 9超えの可能性
⚠️ リスク
  • 遅延の連鎖:2024年目標→Q4 2026と既に2年以上後退。さらに遅れる可能性も
  • タンク試験失敗の余波:次のタンクの試験成功が鍵
  • Falcon 9の圧倒的シェア:商業打ち上げ市場の80%超を独占。価格・信頼性で勝つのは容易ではない
  • 初飛行までの資金消耗:開発費がかさみ続け、商業運用入りまで赤字基調が続く見込み

まとめ

NeutronはRocket Labにとって「会社の未来を賭けたロケット」です。初飛行が成功すれば、SpaceXに次ぐ再利用中型ロケット企業として市場から再評価される可能性が高い。一方、失敗や遅延が続けば、これまで積み上げてきたElectronの実績だけでは説明できない株価期待値が剥がれるリスクもあります。

「2026年Q4にNeutronが飛ぶかどうか」——あと半年。RKLB投資の最大の見どころです。

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